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タイの法人税について

タイの法人税は、年間の課税所得に対して、20%の法人税率が乗じられて計算されます。なお、中小企業には軽減税率の制度があります。法人税の確定申告期限は、期末日から150日後で、法定の会計監査を受けた後の財務諸表に基づいて、確定申告書 (PND50) が作成される必要があります。課税所得は、益金から損金差し引くことで計算され、会計上の利益とは差異があり、その差異の調整が確定申告書上で行われる形です。マイナスの課税所得(税務上の欠損金)が発生した場合は、その分を将来の課税所得から差し引く事が出来、次年度以降5年間有効です。

また、中間期末から2ヶ月以内に中間申告 (PND1) を行い、推定課税所得に基づいた、法人税の前払納付を行う必要があります。前払納付を行なった分は確定申告時に税額から差し引くことができます。

また、期中の売上金受取時に顧客より差し引かれた源泉税は、確定申告時に前払分として、法人税から差し引くことができます。この際は、顧客から入手した源泉徴収証明 (50Tawi) を保管しておく必要があります。

タイでの非居住者等への支払いにかかる源泉税について

タイ法人からの非居住者・外国法人への支払いにかかる源泉税

非居住者・外国法人へ国内源泉所得を支払う場合は、源泉税が発生する事があります。これは日本だけでなく、タイにおいても同様です。
非居住者・外国法人への支払いにかかる源泉税の課税の有無を確認するには、まずは国内法の規定を確認します。

その後適用すべき租税条約があれば、所得源泉地についての規定(ソース・ルール)や源泉税率について確認し、国内法と異なる定めがあれば、租税条約の規定を適用します。

ただし、源泉税率については、国内法の定める源泉税率が、租税条約の定める源泉税の限度税率を下回る場合は、租税条約の限度税率を適用する事はできず、国内法の源泉税率が適用されることとされています。
租税条約の規定は課税制限規定であり、課税根拠規定ではないから、というのがその理由です。

タイ国歳入法上の非居住者・外国法人への支払いにかかる源泉税についての規定
非居住者・外国法人への支払いにかかる源泉税は、世界の多くの国々において、国内源泉所得を支払う場合に発生するものです。
従いまして、何が国内源泉所得であるのかの定義を確認する必要があります。しかし、タイ国歳入法上、タイ国内源泉所得について、明確な定義規定はありません。

タイ国歳入法上の非居住者・外国法人への支払いに係る源泉税の根拠規定は、下記のとおりです(タイ国歳入法70条)。

「外国の法律に基づき設立された会社・・・でタイ国内において事業を営んでいないものが第40条の(2)、(3)、(4)、(5)又は(6)に規定する課税所得を受領する場合で、かつその支払いがタイ国から又はタイ国内で行われるものについては、租税を納付しなければならない。
当該課税所得の支払者は、その所得から会社・・・に係る税率を適用して税額を源泉徴収し、・・・納付しなければならない。」

つまり、国内源泉所得の定義を規定する事なく、ある種類の所得を非居住者・外国法人に対してタイ国から又はタイ国内にて支払う場合は、源泉徴収義務が発生するという規定ぶりとなっています。

ここで、タイ国歳入法40条では、課税所得について、以下の8種類が規定されています。
このうち、(2)、(3)、(4)、(5)又は(6)に該当する所得を、非居住者・外国法人に対して支払う場合は、上記の規定により、源泉徴収が必要となります。

(1) 給与および賃金(ストックオプション、住宅手当、福利厚生による所得を含む)

(2) 請負、雇用およびサービス提供による報酬

(3) 営業権、著作権、フランチャイズ、特許権およびその他権利の使用料ならびにその他の年次報酬等

(4) 利息、配当金、投資家への利益分配金、会社またはパートナーシップの合併、買収あるいは解散による利益、株式譲渡益、暗号資産(仮想通貨)またはデジタルトークンの譲渡により発生した利益等

(5) 資産の賃貸による所得、ハイヤーパーチェスや割賦販売契約の解約による受取違約金

(6) 法律、エンジニアリング、建築、会計等の自由専門業による所得

(7) 請負契約者が道具以外の主要な原材料を提供する工事請負契約から生じる所得

(8) 商業および各種産業から生じる所得、上記(1)~(7)以外の所得

源泉税率については、上記40条(4)の中の(b)に規定される配当および収益の分配について10%である以外は、全て15%となっています。

租税条約上の非居住者・外国法人への支払いにかかる源泉税についての規定

以上のタイ国歳入法上の非居住者・外国法人への支払いにかかる源泉税についての規定は、適用可能な租税条約があり、それを適用する場合は、租税条約の規定により修正されます。

日タイ租税条約についてみますと、役務提供の対価については、歳入法上は15%の源泉税が規定されています(上記40条(2)の所得)が、日タイ租税条約7条の規定により、タイ国内にPE(注1)が無ければ、免除されます。
また、貸付金利息の源泉税率については、タイ国歳入法上の源泉税率が15%であるところ、政府保有の金融機関に対する利息支払いは0%、その他金融機関に対する利息支払いは10%が適用されます。

注1 PE
Permanent Establishment (恒久的施設)の略で、事業を行う一定の場所等をいい、非居住者および外国法人の事業所得に対する課税の根拠となるものです。一般に非居住者および外国法人が国内で事業を行っていても、当該国内に恒久的施設を有していない場合には、その非居住者および外国法人の事業所得は課税されません。「恒久的施設なければ課税なし」と呼ばれ、事業所得課税の国際的なルールとなっています。

それ以外の所得については、すべて、租税条約の限度税率を下回るため、歳入法の税率がそのまま適用されます。
租税条約により、所得源泉地の規定や源泉限度税率が異なるため、支払先がどの国かによって、個別に該当する租税条約の規定を確認する事が必要です。

なお、BEPS最終報告書(注2)の行動6では、租税条約の濫用防止について指摘されており、商流を操作し源泉税率が低くなる有利な租税条約を使用(トリーティーショッピング)する行為を防止する提案がされています。

例えば、主要目的テスト(Principal Purpose Test)では、租税条約の濫用が主な目的であると判断される取引は、租税条約の特典(源泉税の減免等)が否認されます。
また、特典制限条項(Limitation on Benefit Clause)では、租税条約の特典を享受できる適格者を限定し、適格者以外は租税条約を利用できない事としています。

このような租税条約の利用の制限ルールは、既に日米租税条約等にも導入されていますが、今後BEPS防止措置実施条約による改訂が進み、増えていくと思われます。
ただ、現時点で、タイはBEPS防止措置実施条約には未署名です。

注2 BEPS最終報告書
OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development, 経済協力開発機構)にて、近年グローバルに事業展開する多国籍企業が、その活動と各国の税制や国際課税ルールとの間のずれを利用することで、その課税所得を人為的に操作し、課税逃れを行っている問題(Base Erosion and Profit Shifting(BEPS)、税源浸食と所得移転)に対処するために、2015年9月にとりまとめられた報告書です。OECDは2012年よりプロジェクト(BEPSプロジェクト)を立ち上げ、 G20(財務大臣・中央銀行総裁会議)の要請により策定された15項目の「BEPS行動計画」に沿って、国際的に協調してBEPSに有効に対処していくための対応策について議論を行っています。15項目の「BEPS行動計画」のうち、行動6は租税条約の濫用防止についての行動計画です。

実務上の論点:役務提供取引か無形資産取引(使用料、ロイヤリティ)か

ある支払いが役務提供の対価であるのか、無形資産の使用料(ロイヤリティ)であるのか、というのは、しばしば判断が難しい問題です。
その上、タイ法人から日本居住者・日本法人への支払いについて、日タイ租税条約適用の結果、役務提供対価であれば源泉税免除、無形資産の使用料であれば15%の源泉税発生と、取り扱いが大きく異なる事となります。
ここで、日タイ租税条約12条に、ロイヤリティの定義規定があり、この定義に該当すれば、ロイヤリティと判断されます。

その定義は以下のように、かなりの解釈の余地を残しているものとなっています。

日タイ租税条約12条3項 「この条において、「使用料」とは、文学上、美術上若しくは学術上の著作物・・・の著作権、特許権、商標権、意匠、模型、図面、秘密方式若しくは秘密工程の使用若しくは使用の権利の対価として、又は産業上、商業上若しくは学術上の経験に関する情報の対価として受領するすべての種類の支払金をいう。」

ここから、著作権等、知的財産権の使用の対価や権利譲渡対価、そして産業上等の経験に関する情報の対価、がロイヤリティ(使用料)であるという事となります。

そして、登録されている知的財産権のみならず、実質的に知的財産として機能しているもの(例えば日本親会社の製造ノウハウ等)をタイ法人が使用する場合も、ロイヤリティの定義に含まれます。
例えば、日本親会社から受けた、製造ラインの立ち上げ支援や技術指導等は、ロイヤリティと判断される可能性が高いと思われます。

また、システムやソフトウェアの使用料について、タイ国歳入局はルーリングにて、タイ国の著作権法(およびタイ国歳入法40条(3)および日タイ租税条約12条)を参照し、著作権の使用料にあたり、源泉徴収すべきとしています。

判断が非常に難しい論点でありますが、知的財産権としての登録の有無にかかわらず、外国法人が持つ高度なノウハウをタイ法人が使用している、と客観的に判断できるか否かが、検討において重要な点です。

最後に

非居住者・外国法人への支払いについては、VATの論点(サービスの輸入)もあります。
税務署とのトラブルも多い論点となりますので、支払金額が大きくなる場合は、都度専門家への確認を取る等、注意が必要です。

タイでのPE認定について

PEとは
国際租税法上の原則として、非居住者・外国法人の所得に対しては、国内の恒久的施設(Permanent Establishment(PE)注1)を通じて事業を行わない限り、源泉地国は課税できないとする、「PEなければ課税なし」というルールがあります。

日タイ租税条約第7条1項第1文にこの規定があり、日本国-タイ国間においても、この原則が適用されます。
従いまして、タイ国において事業を行う日本企業の観点から見ますと、タイで事業を行っていても、タイ国内にPEが無ければ、タイの税務当局は当該日本企業のタイ国内での事業所得に課税できないルールです。
他方で、日本企業がタイ国内で稼得した、利子、配当、使用料といった投資所得については、主に源泉徴収の課税方式により、タイの税務当局は課税する事ができます。

タイ国歳入法上にも、PEについての規定があります。歳入法第76条の2(Bis)にて、「外国の法律に基づき設立された会社・・・が、タイ国内において事業を行うため使用人、代理人または仲介者を置きタイ国内において利得または所得を生じている場合は、かかる会社・・・は、タイ国内において事業を営んでいるものとみなされ、・・・本節に規定する申告書の提出および納税の義務と責任を負うものとする。」と規定されております。

タイ国内に代理人等を置いて、タイ国内で事業を行い、所得を得ている場合は、タイでの申告納税義務があるとの意になります。

注1 PE
Permanent Establishment (恒久的施設)の略で、事業を行う一定の場所等をいい、非居住者および外国法人の事業所得に対する課税の根拠となるものです。一般に非居住者および外国法人が国内で事業を行っていても、当該国内に恒久的施設を有していない場合には、その非居住者および外国法人の事業所得は課税されません。「恒久的施設なければ課税なし」と呼ばれ、事業所得課税の国際的なルールとなっています。

日タイ租税条約上のPEの規定
PEの有無については、租税条約の規定が、国内法の規定を修正するルールとなっておりますので、タイ国内でのPEの有無の判定は、主に租税条約の規定を参照する事になります。日タイ租税条約第5条にPEの定義が規定され、以下の4つの種類が規定されています。

  1. 事業所PE
  2. 建設PE
  3. 役務提供PE
  4. 代理人PE

以上の4つのうちいずれかでもタイ国内に存在すると認定されれば、そのPEに帰属する所得は、タイ国において、申告納税する必要があります(帰属主義、日タイ租税条約第7条1項第2文)。

PEに帰属する所得は、そのPEがあたかも独立企業であるかのようにして、第三者や本店と取引した場合のそれを基準として算定されます(日タイ租税条約第7条2項)。従いまして、タイ国内法人と同様に、一般管理費等経営上生じた費用については、課税所得計算において、損金算入が可能です。

しかし、タイにおいて、PE認定を受けた場合は、PE帰属所得計算の困難さもあり、推計課税を受ける事となり(歳入法第76条の2(Bis)2項)、課税額は税務当局との交渉によるところが大きい状況です。

タイ国内でのPE認定の事例
タイにおいて、実際に税務当局によって指摘を受けている事例が多いものとして、上記「3.役務提供PE」の認定があります。このPEは、コンサルティングを含む役務提供が任意の12カ月の間に6カ月超行われる場合について、タイ国内にPEが存在するとするものです。

事例として、日本親会社からタイ子会社への出向者が、日本親会社の役務提供PEと認定されるケースが発生しています。日本親会社からの出向者は、本来的には出向先子会社のための業務に従事していると考えられます。

しかし、その職務の実態によっては、タイの税務当局は、当該出向者が、タイ子会社に対してコンサルティング業務に従事していると認定し、そのコンサルティング料に相当する金額について、課税するケースがあります。

上記のタイ子会社出向者が日本親会社のPEとして認定されるリスクへの対応としては、出向者があくまでもタイ子会社のための業務に従事している事を示す事がポイントです。また、実態面のみならず、形式面の対応も必要と考えられます。

例えば、タイ子会社との雇用契約書や出向契約書の整備、出向者のタイ子会社の組織図への記載があげられます。また実態面においては、当該出向者が子会社の指揮命令系統から外れ、親会社からの指示に基づいて業務を行っている場合は、注意が必要です。

実際の事例として、日本親会社の役員が、タイ子会社に出向するケースで、このPE認定が発生しています。タイ子会社において、WP取得に必要な最低限の給与(5万バーツ)しか支給されず、日本親会社での支給が全額役員報酬であったケースです。法的にはこの役員報酬はタイ国内源泉所得ではないため、タイでの申告義務がありません(タイは個人所得税については、タイ国内に持ち込まれた所得を除いて、国外所得免除のルールです)。

従いまして、当該出向者の所得は、上記5万バーツについてのみしかタイでは課税されません、一方で、タイ子会社はそれ以上の便益を受けている状況であり、税務当局はその点を問題視したと思われます。

終わりに
PE認定については、駐在員事務所が実質的な営業活動を行っている場合等にも行われるリスクがあります。PE認定を受けた後のPE帰属所得についての推計課税については、金額が大きくなる傾向があります。
法人所得税等の過度な節税が、PE認定を始めとした、税務当局による強引な課税につながる傾向がありますので、留意が必要です。